世界遺産の島として知られる屋久島で、特産品の屋久杉工芸の材料となる「土埋木(どまいぼく)」が枯渇の危機を迎えています。
鹿児島大の調査では、早ければ3年ほどで枯渇する可能性があるといいます。特別天然記念物の屋久杉は新たに伐採することができず、島の加工業者らは伝統工芸の継承に危機感を募らせているのが現状です。
屋久杉は、1954年に国の特別天然記念物に指定され、82年から伐採が禁止されている。このため、土埋木と呼ばれる江戸時代から戦後にかけて伐採された屋久杉の切り株や台風などで倒れた幹などを搬出し、屋久杉工芸の材料として使用しています。
現在、流通している屋久杉の工芸品の多くは、土埋木を加工したものです。年輪が密で木目が美しく、樹脂を多く含んで腐りにくいのが特長で、工芸用として珍重されています。
林野庁屋久島森林管理署によると、土埋木の搬出が本格化したのは75年以降。これまでに約4万5000立方メートル分を国有林から搬出しました。国から加工業者に払い下げられた後、家具や盆、つぼ、箸などの工芸品に加工され、テーブルや仏壇などの高価な家具は100万円を超えるものも。
土埋木の搬出量は、ピークの83年には年間2400立方メートルに上りましたが、ここ数年は500立方メートル前後に減少。鹿児島大の調査によると、推定残存量は約1500立方メートルしかなく、このままのペースで搬出を続けると、早ければ2015年度に枯渇するといいます。
土埋木の搬出量が年々減少し、将来の安定的な確保が期待できない中、屋久島屋久杉加工協同組合の組合員数も40年前の4分の1の約10人にまで激減。貯蔵分がなくなるのに合わせて廃業する業者もいます。
島では、国に土埋木の島内への優先配分を求めたり、樹齢の短い杉などを使った商品の開発を模索していますが、抜本的な解決策は見つかっていません。
鹿児島県屋久島町企画調整課の矢野和好課長補佐は「屋久杉工芸は国の財産。限りある資源の有効活用に向けて、搬出量の見直しなどの検討が必要だ」と指摘しています。
同町の屋久杉加工業、渡辺重さん(39)は「長年培ってきた技術を途絶えさせるわけにはいかない。細く長く伝統を継承していくために、知恵を絞りたい」と話しています。
(2013年2月6日 読売新聞)